ヒロシマの色を奪ったヒカリ


その日は、朝から 空襲警報が鳴っていた。
どれだけ時間がたったか忘れたが、ほどなく警報は解除され、
それを受けて部隊は、朝礼をするために海岸線に横隊形に集合した。

さぁ 訓練のはじまりだ。
兵舎は江田島の幸ノ浦の海岸から
200メートル離れたところに建てられて比較的近かった。
その日は、天気は快晴で前面は視界良く いつもと変わらない広島の町が見えた。
広島の宇品港まで8キロほどの距離しかない。
夏の強い日差しが 海面を照り付けていた。





1ヶ月ほど前だったか 江田島と広島の間に 敵機が失速して墜落したことがある。
訓練中の部隊の目の前の出来事だった。
飛行機も大きさからして 偵察機ではないだろうか。
大きな爆音と共に墜落した海面に、救難ボートが
ばっと浮き上がったのが、肉眼でハッキリ見えた。

さすが米軍というか、搭乗員保護の装備はすごい。
無事軟着陸したものの、江田島から陸軍の舟艇がすぐさま急行し
米兵2名は、あっという間に捕虜になってしまった。

米兵はまったく抵抗しなかった。
日本軍は捕虜になる事を戒められていたので意外に思う。

米兵たちは、手を後ろにくくられ、目隠しをされて、江田島に連行された。
少年兵たちにとって初めて見る敵兵。
しばらくして、舟艇にのせられて広島の司令部へなのだろうか、
米兵たちは江田島を去っていった。

「きっと殺される」仲間どうしそうささやいた。
この米兵たちの運命がどうなったのか、少年兵たちは、知る由もない。
 
8月6日 その日の敵機は、たった1機。
 静かにゆっくりとゆっくりと前方のヒロシマに向かっていった。
相当高く飛んでいたのだろう・・
江田島からも はるか上空に
 豆つぶのようなB29の機影を多くの兵士たちが目撃している。


 






 


海岸に展開していた部隊も、敵機でありながら 身の危険はまったく感じてはいない。
大編隊を組んで 空襲を行うB29ではないし、
低空で機銃掃射するグラマンでもない。

それでも、何故 空襲警報が解除されたのか・・おかしい・・・とそれぞれ内心思ったと言う。

これが、ヒロシマの地獄絵巻の序章だとは、誰も知る術もなく
時は過ぎてゆく。


そのときある。
突然 ものすごい閃光。
その強烈なヒカリが、すべてをおおいつくし、
周りのすべての風景を音もなく消してしまった。



クリックして下さい。
核爆発のスローです。(100万分の1秒と言われている)

最初の水色は中性子
次の朱色は火球による熱線・次の紫色はγ線(放射線)です。




色は、モノに光があたり 
反射したスペクトルを網膜が読み取り脳に伝える。

すべての不透明なものは、色を吸収する。
そして吸収した補色を反射し、それが色として認識される。

しかし、その激しいヒカリは、すべての物の色を奪ってしまった。

色が失なわれ
そして、森羅万象の命をも奪った人工のヒカリ。

それが、おぞましき原子爆弾。




人は今まで経験したことがない状況になると
相当 肝がすわった人でもパニックになる。

「逃げろ!」

上官の命令があったかどうかもわからないまま、
海岸から皆われ先に兵舎のある山側に逃げた。

時を移さず、ものすごい爆風が部隊を襲う。
木造で決して堅固でなかった平屋の兵舎は大きく揺れた。
ガタガタガタ・・・

「危ない。倒壊する!」

何がなんだかわからなかなかった。
幸い大きく揺れたものの 倒壊はまぬがれ、しばらくして風はおさまる。
「いったいどうなったんだ」
おもむろに 皆 さっきまでいた海岸の方をみた。

「あ・・」

息を呑んだ。
前面のヒロシマの町を見て 驚愕する。
灰色の今まで見たこともないような大きな雲が 町から高く上に伸びてゆき
 そしてその雲は、空に大きく広がっていった。
いわゆる「キノコ雲」だ。




もちろん それが原子爆弾によるものという事は、誰もわからない。
言葉を失いしばらく呆然と見ていた。

ヒロシマの町は、赤々と燃えていた。
「これは、大変なことが起こった。」
「ガス爆発か・・いや その程度のものじゃない。」
「新型爆弾か・・」


それから、どれだけ時が過ぎたかは、何故か記憶にはない。
上層部もきっと混乱していたんだろう。
ただちには、部隊への命令は降りなかったようだ

しかし、それでも、その日のうちに 
それもまだ日が高い時間帯に
非常呼集された事だけは覚えている。

広島に救援に行く。

部隊は それぞれ簡単な装備をつけ、各班にごとに
陸軍の強襲用舟艇・大発に乗り込んだ。

いったい何が起こったんだと不安に思う兵士を乗せて
スシづめ状態の舟艇は、
ゆっくりと対岸の広島の宇品の港に向かっていった。

地獄絵図

注意・悲惨な画像があります。



被ばく2世
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